CDなどめったに買わない、と公言する私が持っている数少ないCDボックスが「マイルス&ギル全仕事」です。毎日聞くわけではないですが、折りにつけ聞き返しています。
この中に「ポーギー&ベス」というガーシュインのオペラ音楽をギル・エヴァンス編曲&指揮、マイルス・デイヴィス/トランペットという逸品があるのですが、これがすごい。なにがすごいかというと、ギルはガーシュインの管弦楽曲を、3ホ−ン+リズムセクションに置き換える以上の作業を行っていることです。
それは原曲のメロディのみを残して、あとはそっくり入れ替え、しかも曲の印象が変わらないようにした、という離れ業です。
スコアを参照すると解りますが、和声はもとの和声進行を残しているところがほとんどありません。
これはアレンジ以上のアクティブな作業を行ったということで、「リコンポジション」と呼ばれます。
で、この「リコンポジション」とは、 「 リ(re-)は「また、再び、新たに」という意味を添える接頭辞である。
作曲(コンポジション)とは、楽曲を創作することである。
編曲(アレンジ)とは「ある楽曲を他の楽器用に編みかえたり、他の演奏形式に適するように改編したりすること」とである。
で、作曲(composition)にreをつけるとrecomposition、編曲(arrangement)にreをつけるとrearrangementになる。このうちリアレンジは、編曲し直す、ぐらいの意味にしか使われないが、リコンポジションは作曲し直す以上の意味がある。」
ギル&マイルスの「ポーギー&ベス」での仕事は、いわばリミックスという言葉が無い時代のリミックスといえるでしょう。すなわち、ある楽曲に新たな意味付け、価値付けを、演奏→録音することで行う作業です。
狭義には、リミックスは、ミックスをし直す=録音された楽曲を電気的に操作する、となりますが、ある楽曲を変化させる、しかも同じ曲であることを何らかの形で解らせなければならない、という点では、リミックスはリコンポジションと同じとらえ方をすることができるでしょう。
さらにクラシックよりに考えると、元の楽曲をその楽曲だとわからせつつ、違うことをやる、と言うのは「変奏/ヴァリエーション」と定義することが出来ます。
本来「ミックスし直す」ぐらいの意味しかないリミックスですが、積極的に考えると、アドリブとも変奏曲を作ることと同じ音楽行為と言えます。
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